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HOME > 司法試験〜短答の鬼 > 公判前整理手続

1.公判前整理手続の意義

(1)争点と証拠の整理
 公判前整理手続とは、第1回公判期日前に、受訴裁判所が主宰して事件の争点・証拠の整理を行う公判準備である。平成16年改正によって新設された。
 裁判所は、充実した公判の審理を継続的・計画的かつ迅速に行うために必要があると認めるときは、検察官および被告人または弁護人の意見を聴いて、決定で事件を公判前整理手続に付すことができる(316条の2第1項)。裁判員裁判では必ず公判前整理手続を行わなければならない(裁判員49条)。
 裁判所は公判前整理手続において十分な準備ができるようにするとともに、できる限り早期に公判前整理手続を終結させるよう努めなければならない(316条の3第1項)。訴訟関係人は、公判前整理手続において相互に協力するとともに、裁判所に進んで協力しなければならない(316条の3第2項)。

(2)手続
 公判前整理手続は、訴訟関係人の陳述または書面の提出によって行う(316条の2第2項)。裁判長は、訴訟関係人を出頭させて整理手続をするときは公判前整理手続期日を定めなければならない(316条の6第1項)。この期日は、検察官・被告人・弁護人に通知する(316条の6第2項)。
 裁判所は受命裁判官に公判前整理手続をさせることができる(316条の11前段)。もっとも、訴因変更の許可(316条の5第2号)・証拠決定(同条7号)・証拠調べに関する異議に対する決定(同条9号)・証拠開示に関する裁定(同条10号)・被害者参加に関する決定(同条11号)の5つの事項は受命裁判官にさせることができない(316条の11前段かっこ書)。裁判員裁判対象事件における公判前整理手続は合議体の構成員である裁判官が受命裁判官となる(裁判員64条)。よって、裁判員に公判前整理手続をさせることはできない。
 公判前整理期日には裁判所書記官を立ち会わせなければならない(316条の12第1項)。書記官は公判前整理手続調書を作成する(316条の12第2項・規217条の14)。

(3)必要的弁護と当事者の出席
 公判前整理手続は、被告人に弁護人がいなければ実施することができない(316条の4第1項)。被告人に弁護人がいない場合において、裁判所は事件を公判前整理手続に付したときは、遅滞なく、被告人に対し、弁護人がいなければ公判前整理手続を実施できないこと、弁護人がいなければ開廷できないことを通知しなければならない(規217条の4)。それでも被告人の弁護人がいない場合は、裁判所は職権で弁護人を付けなければならない(316条の4第2項)。
 公判前整理手続期日には検察官および弁護人が出席しなければならない(316条の7)。弁護人が公判前整理手続期日に出席しないとき、在席しなくなったときは、裁判所は職権で弁護人を付さなければならない(316条の8第1項)。弁護人が公判前整理手続期日に出頭しないおそれがある場合には裁判所は職権で弁護人を付すことができる(316条の8第2項)。
 被告人は公判前整理手続期日に出頭する権利をもつが(316条の9第1項)、義務はない。裁判所は必要と認めるときは被告人の出頭を求めることができる(316条の9第2項)。裁判長は、被告人が出頭する最初の公判前整理手続期日において、被告人に黙秘権を告知しなければならない(316条の9第3項)。裁判所は、弁護人の陳述・提出する書面について被告人の意思を確認する必要があると認めたときは、被告人に対し質問をし、または弁護人に対し被告人と連署した書面の提出を求めることができる(319条の10)。

(4)内容
 公判前整理手続でできるのは以下の事項である。

316条の5の事項 受命裁判官の実施
争点整理 訴因・罰条の明確化(1号) ○(316条の11前段)
訴因・罰条の追加・撤回・変更の許可(2号) ×(316条の11前段かっこ書)
公判期日において予定する主張の明示と争点整理(3号) ○(316条の11前段)
証拠整理 証拠調べ請求(4号) ○(316条の11前段)
証拠調べ請求の立証趣旨・尋問事項等の明示(5号) ○(316条の11前段)
証拠調べ請求に関する意見・326条の同意の確認(6号) ○(316条の11前段)
証拠決定(7号) ×(316条の11前段かっこ書)
証拠調べの順序・方法の決定(8号) ○(316条の11前段)
証拠調べに冠する異議に対する決定(9号) ×(316条の11前段かっこ書)
証拠開示 証拠開示に関する裁定(10号) ×(316条の11前段かっこ書)
公判の進行 被害者参加の申出に対する決定・決定の取消しの決定(11号) ×(316条の11前段かっこ書)
公判期日の決定・変更その他公判手続進行上必要な事項の策定(12号) ○(316条の11前段)
鑑定実施決定 裁判員裁判において鑑定結果の報告に相当期間を要するときは、鑑定の手続を行う旨の決定(裁判員50条1項) ○(316条の11前段・裁判員64条)
 以上の手続の結果は公判前整理手続調書に記載される(規217条の14)。公判前整理手続調書は、公判前整理手続の結果を明らかにするために朗読される(316条の31第1項・規217条の29第1項)。



2.証拠開示

(1)証拠開示の種類
 争点・証拠の整理は、検察官が手元に集中している証拠が被告人・弁護人に開示されその防御活動が進まなければ効果をあげることができない。したがって、公判前整理手続においては証拠開示の制度が大幅に拡充されている。
 検察官が行う証拠開示は3種ある。
 検察官が証拠調べを請求した証拠を必要的に開示する請求証拠開示、検察官請求証拠の証明力を争う上で必要な一定類型の証拠を請求に基づいて開示する類型証拠開示、被告人側の予定する主張に関連する証拠を請求に基づいて開示する主張関連証拠開示である。

(2)請求証拠開示
 検察官は公判において証明すべき証明予定事実を記載した証明予定事実記載書を裁判所提出し、被告人または弁護人に送付しなければならない(316条の13第1項前段)。証明予定事実記載書に証明予定事実を記載するには、事実と証明するための主要な証拠との関係を具体的に明示するなどして(規217条の20)、事件の争点・証拠の整理に必要な事実を具体的に簡潔に明示しなければならない(規217条の19第1項)。証明予定事実記載書には裁判所に予断を生じさせるおそれのある事項を記載してはならない(319条の13第1項後段)。
 検察官は証明予定事実を証明するための証拠について取調べを請求しなければならない(316条13第2項)。請求証拠については速やかに被告人または弁護人に対し開示しなければならない(316条14)。
 開示の方法は、証拠調べ請求した証拠書類・証拠物については、閲覧(弁護人は閲覧・謄写)する機会を与える(316条の14第1号)。証人、鑑定人等の氏名・住居を知る機会を与え、かつ証人等の供述録取書等のうち、公判期日において証人等が供述すると思料する内容が明らかになるものを閲覧(弁護人は閲覧・謄写)する機会を与える(316条の14第2号)。証拠書類・証拠物の閲覧、証人等の氏名・住居の通知は従来から認められていた(299条1項)。証人等が供述することが予想される内容を含む供述録取書等の閲覧は、反対尋問の準備に資することを目的として新設された。 

(3)類型証拠開示
 検察官請求証拠だけではなく、類型証拠も開示が認められる。
 (a)請求証拠以外の証拠であって、316条の15第1項各号の証拠の類型に該当し、(b)請求証拠の証明力を判断するために重要で、(c)開示の重要性と開示による弊害を比較考量して相当と認められる証拠について速やかに開示しなければならない(316条の15条第1項前段)。開示の時期・方法を指定し条件を付すことができる(316条の15第1項後段)。類型証拠の開示は、被告人または弁護人が開示の請求をしなければならない(316条の15第1項前段)。請求は、類型と開示の請求にかかる証拠を識別する事項、当該証拠が証明力を判断するために重要であることなど被告人の防御に準備のために開示が必要な理由を明らかにしてしなければならない(316条の15第2項)。
 検察官は証拠不開示の場合はその理由を被告人または弁護人に告げなければならない(規217条の24)。

315条の15第1項 類型証拠
1号 証拠物
2号 裁判所・裁判官の検証調書
3号 捜査機関の検証調書・実況見分調書
4号 鑑定人・鑑定受託者の鑑定書
5号イ 検察官が証人尋問を請求した者の供述録取書等
5号ロ 取調べを請求した供述録取書につき326条の同意がない場合には証人尋問する予定の供述者の供述録取書等
6号 検察官請求証拠により直接証明しようとする事実に関する供述を内容とする被告人以外の供述録取書等(5号にあたるものは除く)
7号 被告人の供述録取書等
8号 取調べ状況の記録に関する準則に基づき、捜査機関が作成を義務付けられている書面で、身体拘束を受けている被告人の年月日・時間・場所などの取調べの状況を記録したもの

 証明予定事実記載書の送付を受けた、請求証拠・類型証拠の開示を受けたときは、検察官請求証拠について同意をするか(326条)、取調べの請求に異議がないかの意見を明らかにしなければならない(319条の16第1項)。

(4)主張関連証拠開示
 争点形成のために被告人・弁護人も公判前整理手続において主張を明らかにする。
 被告人または弁護人は検察官の証明予定事実記載書の送付を受け、請求証拠開示・類型証拠開示を受けた場合において、主張予定があるときは、裁判所・検察官に明らかにしなければならない(316条の17第1項前段)。この場合、裁判所に予断を与えてはならない(316条の17第1項後段・316条の13第1項後段)。主張予定を明らかにするには、争点・証拠の整理に必要な事項を具体的・簡潔に明示し(規217条の19第2項)、事実と証明する証拠との関係を具体的に明示しなければならない(規217条の20)。また、証明予定事実があるときは証明するための証拠の取調べを請求し(316条の17第2項)、被告人または弁護人は証拠を開示しなければならない(316条の18)。開示を受けた検察官は、被告人・弁護人請求証拠について、同意または異議をするか否かを明らかにしなければならない(316条の19第1項)。
 検察官は、被告人または弁護人から請求があったときは、速やかに主張関連証拠を開示しなければならない。主張関連証拠とは、請求証拠・類型証拠以外の証拠で、被告人または弁護人の主張予定(316条の17)に関連すると認められるものであって、開示の重要性と開示による弊害を比較考量して相当と認められる証拠である(316条の20第1項前段)。検察官は開示の時期・方法などに条件をつけることができる(316条の20第1項後段)。被告人または弁護人は、類型と開示の請求にかかる証拠を識別する事項、当該証拠が証明力を判断するために重要であることなど被告人の防御に準備のために開示が必要な理由を明らかにして請求しなければならない(316条の20第2項)。

(5)証明予定事実・主張予定の追加・変更
 開示の手続が終わった後においても、当事者は証明予定事実・主張予定を追加・変更できる。
 検察官は、追加・変更すべき証明予定事実を記載した書面を速やかに裁判所および被告人または弁護人に送付しなければならない(316条の21第1項前段)。裁判所に予断を与えてはならない(316条の21第1項後段・316条の13第1項後段)。証拠調べの必要がある場合には、速やかに追加すべき証拠の取調べを請求しなければならない(316条の21第2項)。追加・変更した証拠につき、検察官は、請求証拠開示・類型証拠開示をし、被告人または弁護人は、それにつき同意・異議の有無を明らかにしなけばならない(316条の21第4項・316条の14〜16)。
 被告人・弁護人は、追加・変更すべき主張予定を速やかに裁判所および検察官に明らかにしなければならない(316条の22第1項前段)。裁判所に予断を与えてはならない(316条の22第1項後段)。証拠調べを追加すべきときは速やかにその証拠の取調べを請求しなければならない(316条の22第2項)。被告人または弁護人は、請求証拠を速やかに検察官に開示し、検察官は 同意・異議の有無を明らかにしなければならない(316条の22第4項・316条の18〜19)。また、追加・変更した主張につき主張関連証拠の開示が認められる(316条の22第5項・316条の20)。

(6)公判前整理結果の確認
 公判前整理手続が終了するにあたり、裁判所は検察官・被告人または弁護人との間で、事件の争点・証拠の整理の結果を確認しなければならない(316条の24)。

(7)証拠開示に関する裁定
 証拠開示について当事者間に争いが生じたときは裁判所が裁定する。
/ 内容 要件 不服申立て
開示方法等の指定 決定により請求証拠の開示につき時期・方法を指定し、条件を付すことができる(316条の25第1項) 開示の必要性と開示による弊害を考慮して必要と認めるとき・ 相手方の請求(316条の25第1項)
相手方の意見を聴いて(316条の25第2項)
即時抗告(316条の25第3項)
証拠開示命令 決定で証拠の開示を命じなければならない(316条の26第1項前段)
開示に時期・方法を指定し、条件を付すことができる(316条の26条第1項後段)
検察官が開示すべき請求証拠・類型証拠を開示していない(被告人または弁護人が開示すべき請求証拠を開示していない)と認めるとき・相手方の請求(316条の26第1項)
相手方の意見を聴いて(316条の26第2項)
即時抗告(316条の26第3項)
証拠の提示命令 検察官・被告人・弁護人に対して証拠の提示を命じることができる(316条の27第1項前段)
裁判所は何人にも当該証拠を閲覧・謄写をさせてはならない(316条の27第1項後段)
開示方法等の指定(316条の25)・開示命令(316条の26)の決定をするために必要があると認めるとき(316条の27第1項前段) なし(420条1項):通常の上訴
証拠標目一覧表の提示命令 検察官に対して検察官保管証拠の標目を記載した一覧表の提示を命じることができる(316条の27第2項前段)
裁判所は何人にも当該一覧表を閲覧・謄写をさせてはならない(316条の27第2項後段)
被告人または弁護人が証拠開示命令の請求をした場合(316条の26)に、決定をするために必要があると認めるとき(316条の27第2項前段) なし(420条1項):通常の上訴

 証拠開示の方法等の決定に対する即時抗告審(316条の25第3項)・証拠開示命令に対する即時抗告審(316条の26第3項)において証拠・証拠標目一覧表の提示命令の規定(316条の27第1項2項)は準用される(316条の27第3項)。閲覧・謄写は禁止である。

(8)証拠開示の弊害防止
 証拠開示する場合には、証人等に対する加害行為の防止のための配慮(299条の2)、被害者特定事項の秘匿要請(299条の3)の規定が準用される(316条の23)。
 弁護人は開示証拠の複製等を適正に管理しなければならない(281条の3)。被告人・弁護人は開示証拠の複製等を、当該被告事件の審理(281条の4第1項1号)などその準備の使用する目的以外の目的で人に交付・提示しまたは電気通信回線を通じて提供してはならない(281条の4第1項)。違反した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられる(281条の5)。

3.公判手続の特例

(1)必要的弁護
 公判前整理手続に付された事件は公判審理において必要的弁護事件の扱いとなる。したがって、弁護人がなければ開廷できない(319条の29)。

(2)必要的冒頭陳述
 被告人または弁護人は、証拠により証明すべき事実その他主張があるときは、検察官の冒頭陳述(296条)の後に、これを明らかにしなければならない(316条の30前段)。

(3)整理結果の顕出
 被告人または弁護人の冒頭陳述のあとに、裁判所は、公判前整理手続調書の朗読または要旨の告知によって、公判前整理手続の結果を明らかにしなければならない(316条の31第1項・規則217条の29第1項)。

(4)立証制限
 検察官および被告人または弁護人は、やむを得ない事由によって公判前整理手続において請求できなかったものを除き、公判前整理手続が終わった後には、証拠調べを請求することができない(316条の32第1項)。もっとも、裁判所が必要と認めるときは、職権で証拠調べをすることができる(316条の32第2項)。