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1.裁判員制度

(1)裁判員制度の目的
 司法制度改革の中核として、平成16(2004)年5月28日、「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」が成立し、公布された。裁判員制度は、国民の中から選任された裁判員が裁判官とともに刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資するという趣旨で設けられた(裁判員1条)。裁判員法は、平成21(2009)年5月21日に施行された。

(2)陪審と参審
 裁判に国民が直接参加する方式には、陪審制と参審制がある。陪審制は、国民から選ばれた複数の陪審員で構成する陪審が、事実認定、有罪・無罪の判断(制度によっては量刑も)を決定する制度である。これに対し、参審制は国民が裁判官とともに合議体を構成して裁判に関与する形態である。
 裁判員制度は国民の中から選ばれた裁判員が裁判官とともに合議体を構成し、有罪・無罪と量刑を決定する制度である。したがって、陪審と参審との区別でいえば、裁判員制度は参審制にあたる。もっとも、裁判員が任期制をとらずに事件ごとに選任される点は陪審制に類似する。

2.裁判員

(1)裁判員の資格
 裁判員の選任資格は、衆議院議員の選挙権を有することである(裁判員13条)。したがって、20歳以上の日本国民(公選9条1項。ただし公選11条)が裁判員に選ばれる資格がある。
 ただし、欠格事由が定められている。国家公務員法38条に該当する者、義務教育を修了していない者、禁固以上の刑に処せられた者、心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者は裁判員となることができない(裁判員14条)。
 また、一定の職業にある者・あった者は裁判員の職務に就くことができない(裁判員15条)。就業禁止事由に挙げられている職業は、国会議員(裁判員15条1項1号)・国務大臣(同項2号)・国の行政職員(同項3号イ〜ニ)・裁判官および裁判官であった者(同項4号)・検察官および検察官であった者(同項5号)・弁護士および弁護士であった者(同項6号)・弁理士(同項7号)・司法書士(同項8号)・公証人(同項9号)・司法警察職員として職務を行う者(同項10号)・裁判所の常勤職員(同項11号)・法務省の常勤職員(同項12号)・常勤の国家公安委員会委員および常勤の都道府県公安委員会委員ならびに常勤の警察職員(同項13号)・判事、判事補、検事または弁護士となる資格を有する者(同項14号)・学部、大学院の法律学の教授、准教授(同項15号)・司法修習生(同項16号)・都道府県知事および市区町村長(同項17号)・自衛官(同項18号)・禁固以上の刑にあたる罪で起訴され、事件が終結していない者(裁判員15条2項1号)・逮捕、勾留されている者(同項2号)である。
 裁判官の除斥・忌避事由にあたる者はその事件について裁判員になれない(裁判員17条・18条)。不適格事由にあたるのは、被告人または被害者(裁判員17条1号)・被告人または被害者の親族または親族であった者(同条2号)・被告人または被害者の法定代理人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人または補助監督人(同条3号)・被告人または被害者の同居人または使用者(同条4号)・事件を告発または請求した者(同条5号)・事件について証人または鑑定人になった者(同条6号)・被告人の代理人、弁護人または補佐人になった者(同条7号)・事件について検察官または司法警察職員として職務を行った者(同条8号)・事件について検察審査員または審査補助員として職務を行った者または補充員として検察審査会議を傍聴した者(同条9号)・事件について付審判の決定、略式命令、上訴審における破棄・移送の場合における原判決・基礎となった取調べに関与した者のうち、受託裁判官以外の者(同条10号)である。その他裁判所が不公平な裁判をするおそれがあると認めた者も、その事件の裁判員になれない(裁判員18条)。
 裁判員の辞退も認められる(裁判員16条)。辞退できるのは、70歳以上の老齢者(1号)・学生(3号)・疾病(8号イ)・親族の介護(8号ロ)・従事する事業における重要な用務(8号ハ)・父母の葬式(8号ニ)などの事由がある場合である。

(2)選任
 地方裁判所は毎年9月1日までに次年に必要な裁判員候補者の員数をその管轄区域内の市町村に割り当て、市町村選挙管理委員会に通知しなければならない(裁判員20条1項)。市町村選挙管理委員会は選挙人名簿からくじによって裁判員候補者の予定者を選定しなければならない(裁判員21条1項)。さらに、市町村選挙管理委員会は、裁判員候補者予定者の名簿を調製し(裁判員21条2項)、通知を受け取った年の10月15日までに裁判員候補者予定者名簿を地方裁判所に送付しなければならない(裁判員22条)。地方裁判所は、裁判員候補者予定者名簿を受け取り、裁判員の資格のない者・欠格事由のある者などを除いて、裁判員候補者名簿を調製しなければならない(裁判員23条1項3項)。地方裁判所は、裁判員候補者名簿に記載された者にその旨を通知する(裁判員25条)。
 裁判員裁判対象事件の第1回公判期日が決まったら、受訴裁判所は補充裁判員(裁判員10条)の要否・員数を定めなければならない(裁判員26条1項)。受訴裁判所は審判に要する期間などの事情を考慮して呼び出すべき裁判員候補者の員数を定めなければならない(裁判員26条2項)。地方裁判所は、裁判員候補者名簿に記載された裁判員候補者から呼び出すべき裁判員候補者をくじで選定する(裁判員26条3項)。くじには検察官および弁護人に立会いに機会を与えなければならない(裁判員26条4項)。
 受訴裁判所は裁判員等選任手続を行う期日を定めてくじで選定された裁判員候補者を呼び出す(裁判員27条)。呼出状は、特段の事情がない限り裁判員等選任手続の期日の6週間前までに発送しなければならない(裁判員規19条)。呼び出しを受けた裁判員候補者は裁判員等選任手続の期日に出頭する義務がある(裁判員29条1項)。出頭しなければ10万円以下の過料(行政罰)に処せられる(112条1号)。呼出しにあたり、裁判所は裁判員の市買うを判断するために必要な質問票を送付することができる(裁判員30条1項)。裁判員候補者が提出した質問票の写しは検察官および弁護人に閲覧させなければならない(裁判員31条2項)。
 裁判員等選任手続は、裁判官・裁判所書記官が列席し、検察官・弁護人が出席して行う(裁判員32条1項)。必要と認めるときは、被告人を出席させることができる(裁判員32条2項)。裁判員等選任手続は非公開である(裁判員33条1項)。裁判長は、選任資格などを判断するために質問を行い(裁判員法34条1項)、裁判所は検察官・被告人または弁護人の請求か職権で不選任の決定をする(裁判員34条4項)。不選任決定に対しては事件が継続する地方裁判所に異議申立てできる(裁判員35条1項)。検察官および弁護人はそれぞれ4人(5名の合議体のときは3人)まで理由を示さない不選任請求をすることができる(裁判員36条1項)。裁判所は不選任の決定をされなかった裁判員候補者の中からくじなどで原則6人(裁判員2条2項)の裁判員を選任する(裁判員37条1項)。

(3)解任
 検察官、被告人または弁護人は裁判員法41条1項各号の事由を理由として裁判員の解任を請求できる(裁判員41条1項)。解任事由は出頭・出席義務違反(2号)、不公平な裁判をするおそれがあるとき(7号)などである。解任の決定は、相手方または弁護士の意見を聴いて(裁判員41条5項・裁判員規38条1項)合議体でする(裁判員41条4項)。 また、特定の場合には裁判所は職権で裁判員を解任する(裁判員43条1項)。

(4)権限・義務
 裁判員は独立して職務を行う(裁判員8条)。裁判員は、有罪・無罪の判決、少年事件の家裁移送の決定にかかる裁判所の判断のうち、(a)事実の認定・(b)法令の適用・(c)刑の量定に関与する(裁判員6条1項)。証拠の証明力は、裁判員の自由な判断に委ねられる(裁判員62条)。
 裁判員は、公判期日・公判準備に出頭する義務を負う(裁判員52条)。また、評議の秘密を守秘する義務を負う(裁判員70条1項)。「評議の秘密」とは、評議の経過、裁判官・裁判員の意見、意見の多少の数をいう。守秘義務に違反すると、6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられる(108条1項)。

(5)裁判員の保護
 労働者が裁判員の職務を行うために休暇を取得したことなどを理由に解雇その他の不利益な取り扱いをしてはならない(裁判員100条)。何人も、裁判員・補充裁判員・裁判員候補者の氏名・住所その他の個人を特定できる情報を公にしてはならない(裁判員101条1項前段)。裁判員等であった者の情報も、本人が同意している場合を除き、公にしてはならない(裁判員101条1項後段)。
 何人も被告事件に関し、裁判員・補充裁判員・選任予定裁判員に接触してはならない(裁判員102条1項)。また、何人も職務上知りえた情報を知る目的で裁判員等であった者に接触してはならない(裁判員102条2項)。
 裁判員・補充裁判員に対し、その職務に対し、請託をした者は2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処せられる(裁判員106条1項)。裁判員などに威迫をした者も2年以下の懲役または20万円以下の罰金に処せられる(裁判員107条2項)。

3.対象事件と合議体の構成

(1)対象事件
 裁判員裁判の対象となるのは、(a)死刑または無期の懲役・禁固にあたる罪にかかる事件、(b)法定合議事件(裁26条2項2号)であって、故意の犯罪行為によって被害者を死亡させた罪にかかる事件である(裁判員2条1項)。
 自白事件であるか否認事件であるかを問わず、対象事件に該当する限り、必ず裁判員裁判によらなければならない。被告人は裁判員裁判を辞退することはできない。
 ただし、地方裁判所は、被告人の言動・被告人がその構成員である団体の主張その他の事情により、裁判員候補者、裁判員などの生命・身体・財産に対して危害が加えられるおそれなどがあり、裁判員による裁判を行うことが困難であるときは、当事者の請求または職権で裁判官のみの合議体で取り扱う決定をしなければならない(裁判員3条1項)。この決定または請求を却下する決定は、合議体で行うが、対象事件に関与している裁判官は関与できない(裁判員3条2項)。決定に対しては即時抗告できる(裁判員3条6項)。
 対象事件以外の事件であっても、対象事件の弁論と併合することが適当と認められる事件については決定で対象事件に併合できる(裁判員6条1項)。

(2)合議体
 合議体は裁判官3人と裁判員6人で構成する(裁判員2条2項)。大合議体である。
 ただし、公判前整理手続による争点・証拠の整理において、公訴事実に争いがないと認められ、事件の内容その他の事情を考慮して適当と認められるものについては裁判官1人・裁判員4人の合議体で審判する旨の決定をすることができる(裁判員2条3項)。この小合議体による決定をするには、公判前整理手続において検察官、被告人および弁護人に異議がないことを確認しなければならない(裁判員2条4項)。

4.裁判員の関与する判断

(1)判断事項
 裁判員は、有罪・無罪の判決(333条・334条・336条)、少年事件の家裁移送の決定(少55条)にかかる裁判所の判断のうち、(a)事実の認定・(b)法令の適用・(c)刑の量定に関与できる(裁判員6条1項)。これらが裁判員が関与する判断である。(d)法令の解釈・(e)訴訟手続に関する判断(少55条の決定を除く)・(f)その他裁判員の関与する判断に以外の判断は、合議体を形成する裁判官の合議で行う(裁判員6条2項)。小合議体の事件(裁判員2条3項)では1人の構成裁判官が判断する(裁判員7条)。
 控訴棄却の手続や証拠能力については、訴訟手続に関するものなので、裁判員は関与できない。しかし、伝聞証拠の特信情況や自白の任意性は、裁判員が判断する証拠の信用性と密接にかかわるので、公判手続で証拠決定すべきである。  

(2)裁判員の立会い
 裁判所は、裁判員の関与する判断をするための審理以外の審理にも裁判員・補充裁判員の立会いを許すことができる(裁判員60条)。

(3)出頭義務
 裁判員・補充裁判員は、裁判員の関与する判断のための審理をすべき公判期日、公判準備としての証人尋問・検証の日時・場所に出頭しなければならない(裁判員52条)。裁判員は、裁判員の関与する判決または決定の宣告期日に出頭しなければならない。ただし、出頭がなくても判決・決定の宣告はできる(裁判員63条1項)。

5.公判準備と公判期日

(1)公判準備
 裁判員裁判においては、必ず公判前整理手続を行わなければならない(裁判員49条)。公判前整理手続においては、証拠決定ができるにすぎず(319条の5第7号)、証拠調べ自体はできない。しかしながら、鑑定は通常、日時を要する。したがって、裁判員裁判の公判前整理手続において鑑定を行うことを決定し、鑑定結果の報告まで相当の期間を要するときは、請求または職権で、鑑定手続実施の決定をすることができる(裁判員50条1項)。この場合、公判前整理手続において、鑑定の経過・結果の報告以外の鑑定手続をすることができる(裁判員50条3項)。  

(2)審理方法
 裁判員裁判においては、迅速で分りやすい審理が求められる(裁判員51条)。検察官は冒頭陳述において(296条)、公判前整理手続の結果に基づき、証明すべき事実と証拠との関係を具体的に明示しなければならない(裁判員55条前段)。公判前整理手続経た場合、被告人または弁護人も冒頭陳述の必要があるが(316条の30)、被告人または弁護人も証明すべき事実と証拠との関係を具体的に明示しなければならない(裁判員55条後段)。
 続いて、裁判所は公判前整理手続の結果を顕出しなければならない(316条の31)。公判前整理手続調書を朗読するか、要旨の告知をする(規217条の1項)。

(3)裁判員の権限
 裁判員は独立してその職務を行い(裁判員8条)、証拠の証明力は裁判員の自由な判断に委ねられる(裁判員62条)。
 証人尋問や被告人質問の際には、裁判員は、裁判長に告げて裁判員の関与する判断に必要な事項について尋問できる(裁判員56条・59条)。裁判所外で構成裁判官に証人尋問をするときは、裁判員・補充裁判員は立ち会うことができ、裁判長に告げて、尋問できる(裁判員57条)。また、被害者等の意見陳述について、その趣旨を明確にするため、質問することができる(裁判員58条)。

(4)審理の記録
 裁判所は、審理または評議における裁判員の職務の的確な遂行のために必要があると認めるときは、検察官および被告人または弁護人の意見を聴き、訴訟関係人の尋問および供述等を記録媒体に記録することができる。ただし、事案の内容、審理の状況、供述・陳述する者に与える負担その他の事情から不相当なときは、記録できない(裁判員65条1項)。
 ビデオリンク方式による証人尋問の場合は、証人の同意がなければ記録できない(裁判員65条2項)。この場合、記録媒体は、訴訟記録に添付して調書の一部とする。ただし、証人が後の手続で同一の事実について再び同じ供述を求められることがないと明らかに認められるときは、訴訟記録に添付しない(裁判員65条3項)。

6.区分事件審判

(1)意義
 まず、弁論を併合した事件の一部を区分し、区分された事件を、順次裁判員のみが交代する合議体によって審判する。その後、あらたな裁判員が加わった合議体によって、区分されなかった事件の審理、部分判決があった区分事件に関する量刑に必要な情状の審理を行い、併合事件全体に対する審判をする制度を、区分事件審判という。

(2)区分審理決定
 裁判所は、併合した事件を一括して審判することにより見込まれる審判の期間その他裁判員の負担に関する事情を考慮し、その円滑な選任または職務の遂行を確保するため特に必要があると認められるときは、請求または職権により、併合事件の一部を一または二以上の被告事件ごとに区分し、この区分した一または二以上の被告事件ごとに、順次、審理する旨の決定をすることができる(裁判員71条1項本文)。ただし、犯罪の証明に支障を生ずるおそれがあるとき、被告人の防御に不利益を生ずるおそれがあるときその他相当でないときは、区分審理決定はできない(裁判員71条1項ただし書)。区分審理決定は、公判前整理手続・期日手続においてすることができる(裁判員75条)。決定または請求の却下をするときは、検察官および被告人または弁護人の意見を聴かなければならない(裁判員71条2項)。当事者は即時抗告できる(裁判員71条3項)。

(3)部分判決
 区分事件ごとに審理を行い、部分判決で有罪、無罪、管轄違い、免訴、控訴棄却の言渡しをする(裁判員78条1項・79条)。有罪部分判決には、罪となるべき事実・証拠の標目・罰条の適用などを必ず記載しなければならない(裁判員78条2項)。その他、犯罪の動機・態様・結果その他罪となるべき事実に関連する情状に関する事実などの任意的記載事項を示すことができる(裁判員78条3項)。有罪の部分判決をする場合、刑の言渡しは行わないので、区分事件審判では一般情状に関する証拠調べは行われない。被害者等の意見陳述も区分事件審理では行わず、併合審理で行う(裁判員88条本文)。ただし、併合事件審判で行うことが困難である場合その他区分事件審理で行うことが相当であると認めるときは、区分事件審理において被害者等の陳述を行うことができる(裁判員88条ただし書)。
 区分事件を審判する裁判員・補充裁判員は部分判決の宣告などによって任務が終了する(裁判員法84条)。
 部分判決に対しては控訴することができない(裁判員80条)。
 無罪、管轄違い、免訴、控訴棄却の部分判決をした事件の弁論を分離した場合は(313条1項)、分離の決定の告知をした時に、当該部分判決は終局判決となる(裁判員81条)。したがって、この場合は控訴できる。

(4)併合事件審判
 裁判所は、すべての区分事件の審判を終わった後、区分事件以外の事件の審理、区分事件の審理(部分判決で示された事項を除く)、併合事件全体についての判断を行う(裁判員86条1項)。区分事件審判の裁判員の任期が終了し、併合事件審判にかかわる裁判員があらたに合議体に加わった場合には、併合事件の審判に必要な範囲で区分事件の公判手続を更新しなければならない(裁判員87条)。併合事件全体の裁判をするには、絶対的控訴事由(378条・379条)と再審事由(383条)がある場合を除き、部分判決で示された事項に従う(裁判員86条2項3項)。区分事件について、区分判決で示されなかった量刑事実の取調べが行われる。

7.評議と評決

(1)評議
 裁判員の関与する判断のための評議は、構成裁判官および裁判員が行う(裁判員66条1項)。裁判員は評議に出席して意見を述べなければならない(裁判員66条2項)。
 評議において裁判長は、裁判員に対し必要な法令に関する説明を丁寧に行うとともに、評議を裁判員にわかりやすいものとなるように整理し、裁判員が発言する機会を十分に設けるなど、裁判員が職責を果たすことができるように配慮しなければならない(裁判員66条5項)。裁判長は必要と認めるときは裁判員に対し、構成裁判官の合議による法令の解釈にかかる判断および訴訟手続に関する判断を示さなければならない(裁判員66条3項)。裁判員はこれに従って職務を行わなければならない(裁判員66条4項)。

(2)評決
 裁判員の関与する判断は、裁判官および裁判官の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による(裁判員67条1項)。過半数の意見の中に少なくとも1名の裁判官が含まれていなければならない特別多数決である。
 刑の量定の場合、いずれの意見も、構成裁判官および裁判員双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見にならないときは、裁判官および裁判員双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見になるまで、被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見による(裁判員67条2項)。

(3)構成裁判官による評議・評決
 構成裁判官の合議によるべき判断のための評議は、構成裁判官のみが行い、評決は裁判所法77条による(裁判員68条1項2項)。構成裁判官は、合議により、裁判員に評議を傍聴し、裁判員の意見を聴くことができる(裁判員68条3項)。

8.刑訴法の特例

(1)合議体の構成員に裁判員を付け加える場合
 裁判員裁判において刑訴法を適用するうえで必要な特例が置かれている(裁判員64条1項)。
 予断排除(256条6項)、ビデオリンク方式による証人尋問(157条の4)、伝聞書面(321条1項)について、それぞれ「裁判員」を追加する。

(2)合議体の構成員から裁判員を除く場合
 決定・命令をする場合の事実の取調べ(43条4項)、証拠調べの範囲・順序・方法の決定(297条2項)について、「合議体の構成員」を「合議体の構成員である裁判官」と読み替える。

(3)裁判員の保護を付け加える場合
 接見禁止事由(81条)、権利保釈の除外事由(89条5号)、保釈・勾留の執行停止の取消事由(96条1項4号)規定について、「裁判員、補充裁判員若しくは選任予定裁判員に面会、文書の送付その他の方法により接触すると疑うに足りる相当な理由」を追加する。

(4)控訴事由となる合議体構成上の瑕疵から裁判員に関する瑕疵を除く場合
 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと(377条1号)に、「ただし、裁判員の構成にのみ違法がある場合であって、判決が裁判員…法…第6条第1項に規定する裁判員の関与する判断を含まないものであるとき、又はその違法が裁判員は同法第15条第1項各号若しくは第2項各号に掲げるもの該当するときは、この限りでない。」を加える。