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HOME > 司法試験〜短答の鬼 > 簡易な裁判手続

1.公訴の提起と簡易裁判手続

(1)起訴処分
 起訴、すなわち「公訴の提起」(256条1項)とは、裁判所に対し、刑事事件の審判を求める検察官の意思表示である。(a)公判請求は、公判廷での審判を求める請求で、起訴の原則的形式である。(b)即決裁判手続の申立て(350条の2)は、軽微で争いのない事件につき被告人の同意を得て行う、簡略な公判手続による審判の請求である。(c)略式命令請求(461条)は、100万円以下の罰金・科料を科すべき事件において、被告人に異議のない場合に行う、簡易裁判所の書面による審判の請求である。
 その他、(d)交通事件即決裁判の請求(交通裁判3条)は、50万円以下の罰金または科料を科すべき道路交通法違反事件において被告人に異議のない場合に、簡易裁判所における公判心理による即決裁判を求めるものである。しかしながら昭和42年の道交法改正によって交通反則通告制度が設けられて以降、交通事件即決裁判は利用されていない。道交法違反事件の多くは、在宅在庁方式の略式手続が用いられている。

(2)簡易な裁判手続
 通常の公判手続は、冒頭手続・証拠調べ・最終弁論・判決の宣告の段階に分けられる。とりわけ、証人尋問など証拠調べは厳格な手続が定められている。この例外として、簡易な裁判手続も認められる。
 簡易な裁判手続には、公判手続を簡略化する手続と公判手続を経ないものがある。公判手続を簡略化するのが、「簡易公判手続」、「即決裁判手続」である。公判手続を経ないのが「略式手続」である。

2.簡易公判手続

(1)有罪である旨の陳述とアレインメント
 公判での冒頭手続は、人定質問(規196条)→起訴状朗読(291条1項)→供述拒否権等の告知(291条3項前段・規197条)→陳述の機会の付与(291条3項後段)の順序で行われる。裁判長が、被告人・弁護人に対し被告事件について陳述の機会を与え、これに対する被告人・弁護人の公訴事実についての陳述を俗に罪状認否という。いわゆる罪状認否において、被告人が有罪である旨を陳述した場合、裁判所は簡易公判手続によって審判をすることができる。これが簡易公判手続であって、昭和28年改正によって設けられた手続である。もっとも、これによる例はあまり多くない。
 英米法では、被告人の有罪の答弁があった場合に証拠調べを省略できる有罪答弁制度(アレインメント)が認められる。わが国において証拠による有罪認定を省略することは、憲法38条3項との関係で疑義があるとされ、アレインメントは採用されなかった。

(2)対象事件
 裁判所は被告人が冒頭手続において訴因について有罪の陳述をしたときは、その訴因に限り、簡易公判手続によって審判する旨の決定をすることができる(291条の2本文)。決定するには検察官、被告人・被疑者の意見を聴かなければならない。ただし、死刑または無期・短期1年以上の懲役・禁固にあたる事件、すなわち法定合議事件(裁26条2項2号)については簡易公判手続によることができない(291条の2ただし書)。

(3)決定の取消し
 簡易公判手続によることが不適法であるとき、相当でないときは、裁判所は決定を取り消さなければならない(291条の3)。決定が取り消されたときは、公判手続を更新しなければならない(315条の2本文)。ただし、検察官および被告人または弁護人に異議がなければ更新の必要はない(315条の2ただし書)。

(4)審判手続
 簡易公判手続においては証拠調べの規定(296条・297条、300条から302条までおよび304条から307条まで)は適用されず、適当と認められる方法で証拠調べを行うことができる(307条の2)。もっとも、証明力を争う機会は与えなければならない(308条)。
 証拠能力については、当事者が証拠とすることに異議を述べた伝聞証拠を除き、伝聞法則の適用がない(320条2項)。

3.即決裁判手続

(1)即決裁判の申立て
 即決裁判手続も、当事者に争いのない軽微な事件について簡略な公判手続で審理する制度である。平成16年改正によって新設された。
 検察官は、事案が明白・軽微であること、証拠調べが速やかに終わると見込まれることその他の事情を考慮し、相当であるときは、公訴の提起と同時に書面により即決裁判手続の申立てをすることができる(350条の2第1項本文)。ただし、死刑または無期・短期1年以上の懲役・禁固にあたる事件、すなわち法定合議事件(裁26条2項2号)については即決裁判手続によることはできない(350条の2第1項ただし書)。
 申立てには被疑者の同意が必要である(350条の2第2項)。検察官は、書面により、被疑者に、即決裁判手続・通常の手続によって審判を受けることもできることを説明した上で、同意の確認を求めなければならない(350条の2第3項)。弁護人がいるときは弁護人の同意(または意見の留保)も要する(350条の2第4項)。被疑者の同意・弁護人の同意(または意見の留保)は書面で明らかにし(350条の2第5項)、その書面は即決裁判手続の申立てに添付する(350条の2第6項)。
 被疑者が同意をするかどうか明らかにする場合において、被疑者に弁護人がいないときは貧困等の事由により弁護人を選任できること(350条の2第1項)を説明しなければならない(350条の2第3項後段かっこ書)。請求があれば裁判官は、弁護士を付さなければならない(350条の2第1項)。請求には資力申告書の提出などの条件がある(350条の3第2項・37条の3)。

(2)必要的弁護と証拠開示
 即決裁判手続に申立てがあった場合に被告人の弁護人がいないときは、裁判長はできる限り速やかに職権で弁護人を付さなければならない(350条の4)。裁判所は意見を留保していた弁護人、申立て後の選任された弁護人に対し、できる限り速やかに即決裁判手続によることについて同意するか否かの確認をしなければならない(350条の6第1項)。弁護人の同意は書面ででする(350条の6第2項)。
 検察官は、証拠開示するときは(299条1項)、できるだけ速やかに被告人または弁護人にその機会を与えなければならない(350条の5)。

(3)即決裁判手続の決定
 申立てがあったときは、裁判所は検察官および被告人または弁護人の意見を聴いて、できる限り公訴の提起後14日以内に公判期日を開かなければならない(350条の7・規則222条の17)。
 公判期日の冒頭手続において被告人が有罪の陳述をしたときは、即決裁判手続によって審判をする決定をしなければならない(350条の8)。ただし、350条の2第2項4項の被告人・弁護人の同意が撤回されたとき(1号)・350条の6第1項の弁護人の同意が得られないまたは同意が撤回されたとき(2号)・即決裁判手続によるこことが不適法(3号)・不相当(4号)なときは、決定できない。決定を行う手続・即決裁判手続は必定的弁護事件の扱いとなる(350条の9)。

(4)即決裁判手続の決定の取消し
 即決裁判手続の決定は次の場合に取り消さなければならない(350条の11第1項)。判決の言渡し前に、被告人または弁護人が同意を撤回した場合(1号)。判決言渡し前に、被告人が有罪である陳述を撤回した場合(2号)。即決裁判手続によることが不適法(3号)・不相当(4号)な場合。
 決定が取り消された場合、公判手続を更新しなければならない(350条の11第2項本文)。ただし、検察官および被告人または弁護人の異議がない場合には更新しなくてよい(350条の11第2項ただし書)。

(5)審判手続
 被告人は、出頭義務を免除されない(350条の10第1項による284条・285条の不適用)。証拠調べ手続の規定も適用されず(350条の10第1項)、証拠調べは、適当と認められる方式で実施できる(350条の10第2項)。
 伝聞法則も検察官・被告人・弁護人が異議を述べた証拠を除き、適用されない(350条の12第2項)。

(6)判決と上訴
 即決裁判手続においてはできる限り即日判決を言渡さなければならない(350条の13)。懲役または禁固を言渡すときは必ず執行猶予の言渡しが必要である(350条の14)。執行猶予が必要的に言渡されることによって被疑者が即決裁判手続に同意する動機となる。
 即決裁判手続による判決に対して事実誤認(381条)を理由として控訴することができない(403条の2第1項)。事実誤認による控訴を許すと、検察官が犯罪事実にについて遺漏のない証明を行わざるをえなくなり、結果的に即決裁判手続が利用されなくなるおそれがあるからである。上訴裁判所も職権により事実誤認を理由として原判決を破棄できない(403条の2第2項・413条の2)。

4.略式手続

(1)略式命令請求
 簡易裁判所が、書面審査に基づく略式命令によって少額の罰金・科料を科す手続を略式手続という(461条)。軽微な事件の多くがこの手続によって処理されている。略式手続は、公判手続を簡易化するものではなく、公判手続によらない点で簡易公判手続・即決裁判手続と異なる。
 略式命令の請求にあたって、検察官は、被疑者に対し略式命令について説明し、通常手続による審判が可能であることを告げ、略式手続によることについて異議がないことを確認しなければならない(461条の2第1項)。異議がない旨の確認は書面で行わなければならない(461条の2第2項)。
 略式命令の請求は、公訴の提起と同時に簡易裁判所に対して書面で行う(461条前段・462条1項)。被疑者の異議がない旨を確認した書面も添付しなければならない(462条2項)。略式手続は起訴状一本主義の例外であって、書類・証拠を裁判所に提出しなければならない(規289条)。起訴状の謄本は提出しなくてよい(規165条4項)。

(2)審判手続
 略式手続は書面審理による。よって、事実認定は自由な証明で足りる。伝聞法則の適用はない。裁判所は必要はときは事実の取調べができる(43条3項)。

(3)通常の審判への移行
 略式命令をすることができない場合(無罪判決など)、略式手続によることが相当でない場合は通常の審判手続によらなければならない(463条1項)。検察官が被疑者に対して略式手続の説明・告知・意義の確認を怠った場合(461条の2)、確認の書面を添付しなかった場合(462条2項)も、通常の審判をしなければならない(463条2項)。
 通常手続による場合、裁判所の決定などの手続は不要である。もっとも、裁判所は通常手続による旨を通知しなければならない(463条3項)。また、起訴状は送達されない(463条4項本文)。裁判所は書類・証拠物を検察官に返還する(規293条)。検察官は速やかに起訴状謄本を裁判所に提出しなければならない(規292条)。

(4)略式命令
 略式命令には、罪となるべき事実・適当した法令・科すべき刑および付随の処分ならびに略式命令の告知があった日から14日以内に正式裁判の請求ができる旨を示す(464条)。科すべき刑罰は100万円以下の罰金・科料である(461条前段)。付随の処分には没収があり、また、執行猶予に付すことができる(461条後段)。
 略式命令は検察官の請求の日から14日以内に発しなければならない(規290条1項)。請求の日から14日以内に略式命令が被告人に告知されないときは、公訴の提起はさかのぼって効力を失う(463条の2第1項)。この場合、裁判所は公訴棄却の決定をしなければならない(463条の2第2項前段)。略式命令がすでに検察官に告知されているときは略式命令を取り消した上で、公訴棄却の決定をする(463条の2項第2項後段)。公訴棄却の決定に対しては即時抗告ができる(463条の2第3項)。

(5)正式裁判の請求
 略式命令を受けた者または検察官は、告知を受けた日から14日以内に正式裁判の請求をすることができる(465条1項)。請求は略式命令をした簡易裁判所に書面でする(465条2項前段)。請求があれば、裁判所は速やかに他方の当事者に通知しなければならない(465条2項後段)。
 適法な正式裁判の請求があったときは通常の手続によって審理が実施される(468条2項)。略式命令の判断に拘束されることはない(468条3項)。請求が不適法な場合には、裁判所は決定で棄却しなければならない(468条1項前段)。請求の棄却決定に対しては即時抗告ができる(468条1項後段)。
 正式裁判の請求は、第1審判決があるまで取り下げることができる(466条)。正式裁判の請求・取下げには上訴の規定が準用される(467条)。
 正式裁判の請求によって通常の審理を行い判決が確定したときは、略式命令は失効する(469条)。略式命令は、正式裁判の請求期間の経過・正式裁判の請求の取下げ・正式裁判の請求を棄却する裁判の確定によって、確定判決と同一の効力を生じる(470条)。

簡易公判手続 即決裁判手続 略式手続
請求 公訴の提起(検察官に簡易公判手続の申立権はない) 公訴の提起と同時に即決裁判手続の申立て(350条の2第1項本文) 公訴の提起と同時に簡易裁判所に略式命令請求(460条・462条1項)
対象事件 被告人が冒頭手続で有罪の陳述をした事件(291条の2本文) 事案が明白で、軽微・証拠調べが速やかに終わる見込みなど相当と認められる事件(350条の2第1項本文) 簡易裁判所において100万円以下の罰金・科料を科すことのできる事件(461条前段)
対象とならない事件 死刑または無期・短期1年以上の懲役・禁固にあたる事件(291条の2ただし書;法定合議事件(裁26条2項2号)) 死刑または無期・短期1年以上の懲役・禁固にあたる事件(350条の2第1項ただし書;法定合議事件(裁26条2項2号)) 略式手続によることが相当でないと認めるとき(463条1項)
被疑者の同意 被疑者の同意(350条の2第2項) 被疑者の異議がないこと(461条の2第1項)
申立ての手続 検察官は、書面により、被疑者に、即決裁判手続・通常の手続によって審判を受けることもできることを説明した上で、同意の確認を求める(350条の2第3項)。弁護人がいるときは弁護人の同意(または意見の留保)も要する(350条の2第4項)。被疑者の同意・弁護人の同意(または意見の留保)は書面で明らかにし(350条の2第5項)、その書面は即決裁判手続の申立てに添付(350条の2第6項)。 検察官は、被疑者に対し略式命令について説明し、通常手続による審判が可能であることを告げ、略式手続によることについて異議がないことを確認する(461条の2第1項)。異議がない旨の確認は書面(461条の2第2項)。その書面は略式命令請求に添付(462条2項)。
裁判所の決定 裁判所は、検察官・被告人・弁護人の意見を聴いて、簡易公判手続によって審判する旨の決定をする(291条の2本文) 申立てがあったときは、裁判所は検察官および被告人または弁護人の意見を聴いて、できる限り公訴の提起後14日以内に公判期日を開かなければならない(350条の7・規則222条の17)。公判期日の冒頭手続において被告人が有罪の陳述をしたときは、即決裁判手続によって審判をする決定をしなければならない(350条の8)
決定の取消し 裁判所は簡易裁判手続によることができない場合、相当でない場合に決定を取り消さなければならない(291条の3) 判決の言渡し前に、被告人または弁護人が同意を撤回した場合(1号)。判決言渡し前に、被告人が有罪である陳述を撤回した場合(2号)。即決裁判手続によることが不適法(3号)・不相当(4号)な場合は取り消さなければならない(350条の11第1項)。 (略式命令をすることができない場合(無罪判決など)、略式手続によることが相当でない場合は通常の審判手続によらなければならない(463条1項)。検察官が被疑者に対して略式手続の説明・告知・意義の確認を怠った場合(461条の2)、確認の書面を添付しなかった場合(462条2項)も、通常の審判をしなければならない(463条2項)。)
証拠調べ 適当と認められる方法(307条の2) 適当と認められる方法(350条の10第2項) 書面審理
事実の取調べ(43条3項)
伝聞法則 原則不適用(320条2項) 原則不適用(350条の12第2項) 不適用
裁判 判決 できる限り即日判決の言渡し(350条の13)・執行猶予の言渡しは必要的(350条の14) 命令。100万円以下の罰金または科料(461条)・没収や執行猶予も可
不服申立て 上訴 事実誤認を理由とする控訴は不可(403条の2第1項) 告知の日から14日以内に正式裁判の請求(465条1項)