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HOME > 司法試験〜短答の鬼 > 組織再編(1)

1.各種の組織再編行為

(1)会社法第5編と組織再編の例
 会社法は、第5編において「組織変更、合併、会社分割、株式交換及び株式移転」を規定している。個別企業の組織や活動の規定に比べ、合併等の複合企業の組成は少しだけ規定が複雑である。すなわち、第5編第1章から第4章までが制度の内容を規定し(743条〜774条)、第5章に手続規定が置かれているのである(775条〜816条)。また、株式交換・株式移転以外は、株式会社と持分会社のどちらもが当事者となる場合も含めて扱っているので、いっそうわかりにくいものとなっている。
 組織再編の例として「みずほ銀行」を挙げることができる。平成12年9月28日、日本興業銀行・富士銀行・第一勧業銀行の3行は、「株式移転」によって「みずほホールディングス」を設立した。日興銀・富士銀・第一勧銀が「株式移転完全子会社」で、みずほホールディングスが「株式移転完全親会社」である。
 次いで平成14年4月1日に、日興銀が、1月に設立された「みずほ統合準備銀行」に個人向けの事業を「吸収分割」した。富士銀は日興銀(法人向け事業が残っている)を「吸収合併」し、第一勧銀はみずほ統合準備銀行(個人向け事業)を「吸収合併」した。富士銀は個人向け事業を第一勧銀に「吸収分割」し、反対に第一勧銀は富士銀に法人向け事業を「吸収分割」した。富士銀は「みずほコーポレート銀行」に、第一勧銀は「みずほ銀行」へ商号変更した。みずほホールデングスは、みずほ銀行とみずほコーポレート銀行の持株会社ということになる。
 また、村上ファンドによる阪神電鉄の株式買取りを契機とした阪急・阪神統合の際は「株式移転」ではなく、「株式交換」が利用された。平成18年10月1日、「阪急電鉄」の100%親会社である「阪急ホールディングス」は「阪神電気鉄道」との間で「株式交換」をし、阪神電鉄を完全子会社にした(阪急ホールディングスは阪急阪神ホールディングスに商号変更)。
 「阪急百貨店」は阪急阪神ホールディングス傘下ではなかったため、「阪神百貨店」との経営統合も実施された。平成19年10月1日、阪急百貨店は、百貨店事業に関して(新)阪急百貨店を「新設分割」すると同時に「エイチ・ツー・オーリテイリング」に商号変更した。これによって、阪急百貨店はエイチ・ツー・オーリテイリングの完全子会社となった。エイチ・ツー・オーリテイリングは阪神百貨店との間で「株式交換」をし、阪神百貨店を完全子会社化した。さらに平成20年10月1日に、阪急百貨店が阪神百貨店を「吸収合併」し、商号を阪急阪神百貨店へ変更した。

(2)組織変更
 「組織変更」とは、会社が法人格の同一性を保ちつつ別の類型の会社になることをいう。わざわざ解散・清算し新たな会社を設立するよりも、簡便である。法人格が同じなので、許認可等を取り直す必要もない。「組織変更」には、「株式会社」から「持分会社」への組織変更(2条26号イ)と「持分会社」から「株式会社」への組織変更がある(2条26号ロ)。合名会社・合資会社・合同会社間での変更は「持分会社の種類の変更」にすぎず、「組織変更」にあたらない。

(3)合併
 会社の「合併」は、複数の会社を合体させることをいう。「吸収合併」では当事会社の1つが存続会社となり、他の1つまたは複数の解散する当事会社の財産と株主を引き継ぐ(2条27号)。「新設合併」では、当事会社のすべてが解散し、それらの株主と財産で新しく会社を設立する(2条28号)。通常、会社は経営を合理化したり、金融力・販売力などを強化したり、お互いの技術力を補完し合ったりするために合併をするが、業績不振の会社を救済するために合併することもある。
 合併は全ての種類の会社間で認められる(748条「会社」は)。吸収合併では株式会社・持分会社どちらも存続会社となることができる(749条・751条)。新設合併でも株式会社・持分会社どちらも新設会社となることができる(753条・755条)。

(4)会社分割
 会社の分割とは、事業に関する権利義務を新しく作る会社または既存の会社に承継させることである。平成12年改正によって導入された。会社分割には「吸収分割」と「新設分割」とがある。「吸収分割」は、会社がその事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割後他の会社に承継させることをいう(2条29号)。「新設分割」は事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割によって設立する会社に承継させることをいう(2条30号)。会社は、低下した部門の能率の向上を図ったり(経営の合理化)、新事業にリスクを子会社の利用によって限定したり(有限責任の利用)、業績不振の部門を別会社に移し収益率の向上を図ったり(不採算部門の分離)するために会社分割を行う。
 会社分割することができるのは、株式会社と合同会社である(2条29号・30号、757条・762条)。分割制度が必要なほど規模や複雑さを備えた企業が合名会社・合資会社の形態をとることはまずないからである。他方で、分割の受け皿となる会社に制限はない。吸収分割の承継会社・新設分割の承継会社ともに合名会社・合資会社でもなることができる(760条・765条)。

(5)株式交換・株式移転
 株式交換・株式移転ともに完全親会社を作る制度である。平成11年改正によって創設された。「株式交換」は既存の会社の1つが親会社になるものである(2条31号)。「株式移転」は完全親会社になる会社を新たに設立する手続である(2条32号)。株式交換・移転ともにできるのは株式会社に限られ、持分会社は株式交換・移転をできない(2条31号・32号、767条前段、772条1項)。株式交換における完全親会社には株式会社のほか合同会社がなることができる(2条31号・767条後段かっこ書)。株式移転の完全親会社になれるのは株式会社のみである(2条32号、773条1項1号)。
 株式「交換」といっても、親会社になろうとする会社と子会社になろうとする会社との間で株式を交換するのではない。あえて言えば、完全親会社になろうとする会社と完全子会社になろうとする会社の「株主」との間で株式「交換」するのであるが、子会社株主は株式交換の当事者ではなく、また、子会社株主への対価は親会社株式であるとは限らない。

(6)事業譲渡・譲受けと企業提携
 会社法第5編には含まれていないが、事業の譲渡や経営の委任なども企業再編の重要な手段である(467条〜470条)。採算の悪い事業から撤退するために事業譲渡を用いたり、新しい事業に進出するために事業を譲受けたりする。合併の経済的機能と共通するところが多い。合併は組織法上の行為で株主までも取り込むのに対し、事業譲渡は財産だけにかかわる取引上の行為である。事業譲渡では個々の財産の移転手続が必要であって、全部譲渡の場合でも譲渡会社は当然には解散しない。
 事業の全部の譲渡、事業の重要な一部の譲渡、事業の全部の譲受け、事業の全部の賃貸・経営の委任・利益共同契約・その他の連携をまとめて「事業譲渡等」という(468条1項かっこ書)。

再編行為/主体 合名会社 合資会社 合同会社 株式会社
事業譲渡等 ○(467条1項の規制を受けない) ○(467条1項の規制を受けない) ○(467条1項の規制を受けない) ○(467条1項の規制を受ける)
組織変更 ○(764条) ○(764条) ○(764条) ○(762条)
吸収合併消滅会社 ○(748条) ○(748条) ○(748条) ○(748条)
吸収合併存続会社 ○(751条) ○(751条) ○(751条) ○(749条)
新設合併消滅会社 ○(748条) ○(748条) ○(748条) ○(748条)
新設合併設立会社 ○(755条) ○(755条) ○(755条) ○(753条)
吸収分割会社 × × ○(757条) ○(757条)
吸収分割承継会社 ○(760条) ○(760条) ○(760条) ○(758条)
新設分割会社 × × ○(762条) ○(762条)
新設分割設立会社 ○(765条) ○(765条) ○(765条) ○(763条)
株式交換完全子会社 × × × ○(767条前段)
株式交換完全親会社 × × ○(767条後段かっこ書・770条) ○(767条後段かっこ書・768条)
株式移転完全子会社 × × × ○(772条)
株式移転完全親会社 × × × ○(773条1項1号)



2.組織再編の手続

(1)手続の流れ
 組織再編行為の基本的な手続の流れは、(a)計画・契約の作成→(b)事前の開示→(c)株主の承認→(d)反対株主の株式買取請求→(e)債権者保護手続→(f)事後の開示→(g)登記、となる。
 会社法では手続について、吸収合併、吸収分割及び株式交換をまとめてひとつの規定(782条〜802条)に、新設合併、新設分割及び株式移転をまとめて規定している(803条〜816条)。

(2)定義

吸収合併等 吸収合併・吸収分割・株式交換 782条1項
消滅株式会社等 吸収合併消滅株式会社・吸収分割株式会社・株式交換完全子会社 782条1項
存続会社等 吸収合併存続会社・吸収分割承継会社・株式交換完全親会社 784条1項
存続株式会社等 吸収合併存続株式会社・吸収分割承継株式会社・株式交換完全親株式会社 794条1項
消滅会社等 吸収合併消滅会社・吸収分割会社・株式交換完全子会社 796条1項
新設合併等 新設合併・新設分割・株式移転 804条4項
消滅株式会社等 新設合併消滅株式会社・新設分割株式会社・株式移転完全子会社 803条1項
設立会社 新設合併設立会社・新設分割設立会社・株式移転設立完全親会社 803条1項