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HOME > 司法試験〜短答の鬼 > 組織再編(4)

5.株主の承認

 組織再編の実施にあたっては株主総会の特別決議による承認が必要である。簡易手続(平成9年改正)や略式手続(会社法で新設)によれば総会決議を省略できる。

(1)事業譲渡等
 会社は、事業の全部の譲渡、事業の重要な一部の譲渡、事業の全部の譲受け、事業の全部の賃貸・経営の委任・利益共同契約・その他の提携を行う場合には、原則として株主総会における特別決議による承認が必要である(467条1項1号〜4号、309条2項11号)。
 事業の全部を譲り受ける場合でも(467条1項3号)、譲り受ける会社の株主に及ぶ影響が軽微な場合には総会決議による承認が不要である(467条2項)。この簡易手続は、譲受会社が譲渡会社に交付する対価が譲受会社の純資産額の5分の1以下であるときに認められる。ただし、株主への通知・公告から2週間内に原則として議決権の6分の1以上の株主が反対すれば簡易手続によって事業の全部を譲受けることはできない(468条3項・規則138条1号)。
 また、略式手続によることも認められる。譲受会社が譲渡会社の特別支配会社であれば譲渡会社における株主総会の承認は不要である(468条1項)。譲受会社が譲受けようとする限り、譲渡会社の総会で承認が否決されることはありえないからである。合併等と異なり(784条2項796条2項)、株主に差止請求権は認められない。
事業譲渡等 株主総会の決議要件 根拠規定
原則 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数
全部の事業を譲り受ける場合にその資産に自己株式があるときは取締役は総会で説明しなければならない(467条2項)
467条1項1号〜4号、309条2項11号
簡易事業譲受け 事業の全部を譲り受ける場合、譲受会社が譲渡会社に交付する対価が譲受会社の純資産額の5分の1(定款で下げることができる)以下のときは総会決議による事業譲渡等の承認は不要 468条2項
簡易事業譲受けの例外 株主への通知・公告から2週間内に原則として議決権の6分の1以上の株主が反対すれば簡易手続によって事業の全部を譲受けることはできない 468条3項・規則138条1号
略式事業譲渡等 相手方が株式会社の特別支配会社のときは総会決議による事業譲渡等の承認は不要(株主に差止請求権は認められない) 468条1項


(2)組織変更
 株式会社が組織変更する場合には効力発生日の前日までに総株主の同意をえなければならない(776条1項)。持分会社の場合も組織変更計画につき総社員の同意が必要であるが(781条1項本文)、定款で軽減することができる(同項ただし書)。
組織変更 株主の承認 根拠規定
株式会社 組織変更計画につき総株主の同意 776条1項
持分会社の原則 組織変更計画につき総社員の同意 781条1項本文
持分会社の例外 定款で「総社員」の部分を軽減したときは組織変更計画につきその数の社員の同意 781条1項ただし書


(3)吸収合併・新設合併
 各当事会社は、株主総会の特別決議によって合併の承認をする(783条1項・795条1項・804条1項・309条2項12号)。株主に交付される合併対価の一部でも譲渡制限株式である場合には、議決権を行使できる株主の半数以上で議決権の2/3以上の賛成が必要である(309条3項2号3号)。消滅会社が種類株式発行会社の場合は、半数以上で議決権の2/3以上の賛成が必要である(783条4項、804条3項、324条3項2号)。存続会社が種類株式発行会社である場合において、存続会社の譲渡制限株式を合併対価とするときは、種類株主総会の特別決議によって承認しなければならない(795条4項1号、324条2項6号)。
 存続会社が消滅会社株主に交付する合併対価額が存続会社の純資産総額の1/5以下にとどまるなら、存続会社の総会による合併承認決議を省略することができる(簡易合併;796条3項)。合併が存続会社株主に与える影響はわずかだからである。ただし、次の場合には決議を省略できない。(ア)承継債務額が承継資産額を超えるか(796条3項ただし書、795条2項1号)、消滅会社株主に交付する金銭等の簿価が消滅会社から承継する純資産を超える場合(796条3項ただし書、795条2項2号)、(イ)存続会社が公開会社でなく、消滅会社株主に交付する合併対価に譲渡制限株式が含まれる場合(796条3項ただし書、1項ただし書)。(ウ)合併の通知・公告の日から2週間以内に議決権の1/6以上の株式を持つ株主が合併に反対する旨を会社に通知した場合(796条4項、規則197条)。
 新設合併に簡易合併はない。また吸収合併消滅会社にも簡易合併はない(784条3項・805条参照)。消滅会社株主は合併によってその地位を失うから、株主総会決議を省略することができないのである。
 存続会社が消滅会社の特別支配会社(468条1項)である場合、消滅会社の株主総会で合併承認が否決されることはありえないから、消滅会社の特別決議による合併の承認は不要である(略式合併;784条1項本文)。消滅会社が公開会社で種類株式発行会社でもなく、合併の対価が譲渡制限株式の場合は略式合併によることができない(784条1項ただし書)。反対に消滅会社が存続会社の特別支配会社である場合には、存続会社において株主総会での承認が不要である(796条1項本文)。存続会社が譲渡制限株式を発行する会社であり、合併対価に存続会社の譲渡制限株式が含まれる場合も決議を省略することはできない(796条1項ただし書)。
 略式合併により決議なしに合併の手続が進められる会社の株主は、合併の差止請求をすることができる。要件は、合併が法令・定款に違反するかまたは合併対価が当事会社の財産状況に照らして著しく不当であり、株主が不利益を受けるおそれがあることである(784条2項・796条2項)。
 新設合併の場合は、設立会社が存在しないので特別支配会社ということはない。よって略式新設合併は存在しない。
会社の合併 株主総会の決議その他の株主・社員の承認の要件 根拠規定
原則(特別決議) 吸収合併消滅会社 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 783条1項、309条2項12号
吸収合併存続会社 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数
合併差損が生じる場合(795条2項1号2号)、自己株式取得となる場合には(795条3項)、取締役は株主総会において説明しなければならない。
795条1項、309条2項12号
新設合併消滅会社 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 804条1項、309条2項12号
例外(特殊決議) 吸収合併消滅会社(公開会社で、株主に交付される合併対価が一部でも譲渡制限株式である場合) 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち株主の半数(定款で加重可)以上かつ議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 783条1項、309条3項2号
吸収合併存続会社
新設合併消滅会社(公開会社で、株主に交付される合併対価が一部でも譲渡制限株式である場合) 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち株主の半数(定款で加重可)以上かつ議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 804条1項、309条3項3号
例外(総株主の同意) 吸収合併消滅会社(株主に交付される合併対価が一部でも持分等である場合) 総株主の同意 783条2項
吸収合併存続会社
新設合併消滅会社(設立会社が持分会社の場合) 総株主の同意 804条2項
種類株主総会(特別決議) 吸収合併消滅会社
吸収合併存続会社(消滅会社株主・社員に交付する合併対価が存続会社の譲渡制限株式である場合) 種類株主総会において議決権を行使できる株主の過半数(定款による加重可)をもつ株主が出席し議決権の3分の2(定款による加重可)以上の多数 795条4項1号、324条2項6号
新設合併消滅会社
種類株主総会(特殊決議) 吸収合併消滅会社(譲渡制限のない種類株式の合併対価が一部でも譲渡制限株式であるとき) 種類株主総会で過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち、株主の半数(定款で加重可)以上かつ議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 783条3項、324条3項2号
吸収合併存続会社
新設合併消滅会社(譲渡制限のない種類株式の株主の合併対価が一部でも譲渡制限株式であるとき) 種類株主総会で過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち、株主の半数(定款で加重可)以上かつ議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 804条3項、324条3項2号
種類株主総会(種類株主全員の同意) 吸収合併消滅会社(種類株主に交付される合併対価が一部でも持分等である場合) 種類株主全員の同意 783条4項
吸収合併存続会社
新設合併消滅会社
簡易手続(原則) 吸収合併消滅会社
吸収合併存続会社 存続会社が消滅会社株主に交付する合併対価額が存続会社の純資産総額の1/5以下の場合は、総会決議が不要 796条3項本文
新設合併消滅会社
簡易手続(例外) 吸収合併消滅会社
吸収合併存続会社 (ア)承継債務額が承継資産額を超えるか、消滅会社株主に交付する金銭等の簿価が消滅会社から承継する純資産を超える場合、
(イ)存続会社が公開会社でなく、消滅会社株主に交付する合併対価に譲渡制限株式が含まれる場合、
(ウ)合併の通知・公告の日から2週間以内に原則議決権の1/6以上の株式を持つ株主が合併に反対する旨を会社に通知した場合は、
決議の省略ができない。
(ア)796条3項ただし書前段、795条2項1号2号
(イ)796条3項ただし書後段、1項ただし書
(ウ)796条4項、規則197条
新設合併消滅会社
略式手続(原則) 吸収合併消滅会社 存続会社が消滅会社の特別支配会社の場合は、消滅会社総会決議が不要。株主の差止請求権あり(784条2項) 784条1項本文
吸収合併存続会社 消滅会社が存続会社の特別支配会社の場合は、存続会社総会決議が不要。株主の差止請求権あり(796条2項) 796条1項本文
新設合併消滅会社
略式手続(例外) 吸収合併消滅会社 消滅会社が公開会社で種類株式発行会社でもなく、合併の対価が譲渡制限株式の場合は総会決議を省略することができない。 784条1項ただし書
吸収合併存続会社 存続会社が譲渡制限株式を発行する会社であり、合併対価に存続会社の譲渡制限株式が含まれる場合は決議を省略することはできない。 796条1項ただし書
新設合併消滅会社
持分会社 吸収合併消滅会社 総社員の同意。ただし定款に別段の定めを設けることができる。 793条1項1号
吸収合併存続会社 存続会社の社員になるときは総社員の同意が必要。ただし定款に別段の定めを設けることができる。 802条1項1号
新設合併消滅会社 総社員の同意。ただし定款に別段の定めを設けることができる。 813条1項1号


(4)吸収分割・新設分割
 各当事会社は、株主総会の特別決議によって会社分割の承認をする(783条1項・795条1項・804条1項・309条2項12号)。会社分割の対価は分割会社に交付され、分割会社株主の地位に変化はない。よって、分割の対価が譲渡制限付の承継会社株式であっても持分会社の持分であっても決議要件は重くなることはない(309条3項2号3号、783条2項参照)。
 分割会社が種類株式発行会社である場合において、分割会社の譲渡制限株式を対価とするときは、種類株主総会の特別決議によって承認しなければならない(795条4項2号、324条2項6号)。
 分割会社が承継会社に承継させる資産合計額がが分割会社の純資産総額の1/5(定款によって下回ることができる)以下にとどまるなら、分割会社の総会による分割承認決議を省略することができる(簡易分割;784条3項、新設分割の場合は805条)。分割が分割会社株主に与える影響はわずかだからである。吸収合併消滅会社、新設分割消滅会社は会社が消滅するため簡易手続は認められる余地はないのに対し、分割会社は会社が存続するから簡易手続が認められる。また、承継会社が分割会社に交付する分割の対価が承継会社の総資産の5分の1以下であれば承継会社の総会決議が不要である(796条3項本文)。ただし、次の場合には決議を省略できない。(ア)承継債務額が承継資産額を超えるか(796条3項ただし書、795条2項1号)、分割会社に交付する金銭等の簿価が分割会社から承継する純資産を超える場合(796条3項ただし書、795条2項2号)、(イ)分割会社が公開会社でなく、分割会社に交付する合併対価に譲渡制限株式が含まれる場合(796条3項ただし書、1項ただし書)。(ウ)分割の通知・公告の日から2週間以内に議決権の原則1/6以上の株式を持つ株主が会社分割に反対する旨を会社に通知した場合(796条4項、規則197条)。
 承継会社が分割会社の特別支配会社(468条1項)である場合、分割会社の株主総会で会社分割の承認決議が否決されることはありえないから、分割会社における特別決議による分割の承認は不要である(略式分割;784条1項本文)。分割会社が公開会社であって、種類株式発行会社でもなく、分割の対価が一部でも譲渡制限株式の場合は略式分割によることができない(784条1項ただし書)。反対に分割会社が承継会社の特別支配会社である場合には、承継会社において株主総会での承認が不要である(796条1項本文)。ただし承継会社が譲渡制限株式を発行する会社であり、分割対価に承継会社の譲渡制限株式が一部でも含まれる場合も決議を省略することはできない(796条1項ただし書)。
 略式分割により決議なしに会社分割の手続が進められる会社の株主は、会社分割の差止請求をすることができる。要件は、分割が法令・定款に違反するかまたは分割対価が当事会社の財産状況に照らして著しく不当であり、株主が不利益を受けるおそれがあることである(784条2項・796条2項)。
会社の分割 株主総会の決議その他の株主・社員の承認の要件 根拠規定
原則(特別決議) 吸収分割会社 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 783条1項、309条2項12号
吸収分割承継会社 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数
吸収分割により差損が生じる場合(795条2項1号2号)、自己株式取得となる場合には(795条3項)、取締役は株主総会において説明しなければならない。
795条1項、309条2項12号
新設分割会社 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 804条1項、309条2項12号
例外(特殊決議) 吸収分割会社(公開会社で、株主に交付される分割対価が一部でも譲渡制限株式である場合) 783条1項、309条3項2号参照
吸収分割承継会社
新設分割会社(公開会社で、株主に交付される分割対価が一部でも譲渡制限株式である場合) 804条1項、309条3項3号参照
例外(総株主の同意) 吸収分割会社(株主に交付される分割対価が一部でも持分等である場合) 783条2項参照
吸収分割承継会社
新設分割会社(設立会社が持分会社の場合) 804条2項参照
種類株主総会(特別決議) 吸収分割会社
吸収分割承継会社(消滅会社株主・社員に交付する合分割対価が存続会社の譲渡制限株式である場合) 種類株主総会において議決権を行使できる株主の過半数(定款による加重可)をもつ株主が出席し議決権の3分の2(定款による加重可)以上の多数 795条4項2号、324条2項6号
新設分割会社
種類株主総会(特殊決議) 吸収分割会社(譲渡制限のない種類株式の分割対価が一部でも譲渡制限株式であるとき) 783条3項、324条3項2号参照
吸収分割承継会社
新設分割会社(譲渡制限のない種類株式の株主の分割対価が一部でも譲渡制限株式であるとき) 804条3項、324条3項2号参照
種類株主総会(種類株主全員の同意) 吸収分割会社(種類株主に交付される分割対価が一部でも持分等である場合) 783条4項参照
吸収分割承継会社
新設分割会社
簡易手続(原則) 吸収分割会社 承継させる資産が分割会社の総資産の5分の1(定款で下回れる)以下の場合は分割会社における総会決議による分割の承認は不要 784条3項
吸収分割承継会社 承継会社が分割会社に交付する分割対価額が承継会社の純資産総額の1/5(定款で軽減可)以下の場合は、承継会社における総会決議が不要 796条3項本文
新設分割会社 新設会社に承継させる資産が分割会社の総資産の5分の1(定款の定めで下回ることができる)以下の場合は分割会社における総会決議による分割の承認が不要 805条
簡易手続(例外) 吸収分割会社
吸収分割承継会社 (ア)承継債務額が承継資産額を超えるか、分割会社に交付する金銭等の簿価が承継会社から承継する純資産を超える場合、
(イ)承継会社が公開会社でなく、分割会社に交付する分割対価に譲渡制限株式が含まれる場合、
(ウ)分割の通知・公告の日から2週間以内に原則議決権の1/6以上の株式を持つ株主が合併に反対する旨を会社に通知した場合は、
決議の省略ができない。
(ア)796条3項ただし書前段、795条2項1号2号
(イ)796条3項ただし書後段、1項ただし書
(ウ)796条4項、規則197条
新設分割会社
略式手続(原則) 吸収分割会社 承継会社が分割会社の特別支配会社の場合は、分割会社総会決議が不要。株主の差止請求権あり(784条2項) 784条1項本文
吸収分割承継会社 分割会社が承継会社の特別支配会社の場合は、承継会社総会決議が不要。株主の差止請求権あり(796条2項) 796条1項本文
新設分割会社
略式手続(例外) 吸収分割会社 784条1項ただし書参照
吸収分割承継会社 796条1項ただし書参照
新設合併消滅会社
持分会社 吸収分割会社(合同会社のみ) 総社員の同意。ただし定款に別段の定めを設けることができる。 793条1項2号
吸収分割承継会社 分割承継会社の社員になるときは総社員の同意が必要。ただし定款に別段の定めを設けることができる。 802条1項2号
新設合併消滅会社(合同会社のみ) 事業の全部の権利義務を承継させるときは、総社員の同意。ただし定款に別段の定めを設けることができる。 813条1項2号


(5)株式交換
 株式交換の各当事会社は、株主総会の特別決議によって株式交換の承認をする(783条1項・795条1項・309条2項12号)。完全子会社となる会社が公開会社であって、完全子会社となる会社の従来の株主に交付する株式交換の対価が一部でも譲渡株式等である場合には完全子会社となる会社において特殊決議による承認が必要である(783条1項・309条3項2号)。完全子会社の株主に交付する対価が一部でも持分会社の持分等である場合には完全子会社の総株主の同意を得なければならない(783条2項)。
 完全子会社が種類株式発行会社の場合は、完全子会社株主に交付する対価が完全親会社の譲渡制限株式であるとき、完全親会社の種類株主総会における特別決議が必要である(795条4項3号、324条2項6号)。譲渡制限のない種類株主の株式交換対価が一部でも譲渡制限株式であるときは、完全子会社の種類株主総会において特殊決議が必要である(783条3項、324条3項2号)。種類株主に交付される株式交換対価が一部でも持分等である場合には、完全子会社の種類株主全員の同意が必要である(783条4項)。
 合併・分割の場合と同様、簡易株式交換が認められる。完全親会社が完全子会社株主に交付する株式分割の対価が完全親会社の総資産の5分の1以下であれば承継会社の総会決議が不要である(796条3項本文)。ただし、次の場合には決議を省略できない。(ア)承継債務額が承継資産額を超えるか(796条3項ただし書、795条2項1号)、完全子会社に交付する金銭等の簿価が完全子会社から承継する純資産を超える場合(796条3項ただし書、795条2項2号)、(イ)完全子会社が公開会社でなく、完全子会社に交付する株式交換対価に完全親会社の譲渡制限株式が含まれる場合(796条3項ただし書、1項ただし書)。(ウ)株式交換の通知・公告の日から2週間以内に議決権の原則1/6以上の株式を持つ株主が株式交換に反対する旨を会社に通知した場合(796条4項、規則197条)。
 完全親会社が完全子会社の特別支配会社(468条1項)である場合、完全子会社の株主総会で株式交換の承認決議が否決されることはありえないから、完全子会社における特別決議による分割の承認は不要である(略式株式交換;784条1項本文)。完全子会社が公開会社であって、種類株式発行会社でもなく、株式交換の対価が一部でも譲渡制限株式の場合は略式株式交換によることができない(784条1項ただし書)。反対に完全子会社が完全親会社の特別支配会社である場合には、完全親会社において株主総会での承認が不要である(796条1項本文)。ただし完全親会社が譲渡制限株式を発行する会社であり、株式交換対価に完全親会社の譲渡制限株式が一部でも含まれる場合も決議を省略することはできない(796条1項ただし書)。もっとも、完全子会社が完全親会社の特別支配会社である場合はまずないだろう。
 略式株主交換により決議なしに会社分割の手続が進められる会社の株主は、株式交換の差止請求をすることができる。要件は、株式交換が法令・定款に違反するかまたは株式交換対価が当事会社の財産状況に照らして著しく不当であり、株主が不利益を受けるおそれがあることである(784条2項・796条2項)。
株式交換 株主総会の決議その他の株主・社員の承認の要件 根拠規定
原則(特別決議) 株式交換完全子会社 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 783条1項、309条2項12号
株式交換完全親会社 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数
完全親会社が完全子会社株主に交付する対価が完全親会社株式以外の財産で、その対価が完全親会社が取得する完全子会社株式の価値を上回る場合には、取締役は株主総会において説明しなければならない(795条2項3号)。
795条1項、309条2項12号
例外(特殊決議) 株式交換完全子会社(公開会社で、株主に交付される株式交換対価が一部でも譲渡制限株式である場合) 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち株主の半数(定款で加重可)以上かつ議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 783条1項、309条3項2号
株式交換完全親会社
例外(総株主の同意) 株式交換完全子会社(株主に交付される株式交換の対価が一部でも持分等である場合) 総株主の同意 783条2項
株式交換完全親会社
種類株主総会(特別決議) 株式交換完全子会社
株式交換完全親会社(完全子会社株主に交付する対価が完全親会社の譲渡制限株式である場合) 種類株主総会において議決権を行使できる株主の過半数(定款による加重可)をもつ株主が出席し議決権の3分の2(定款による加重可)以上の多数 795条4項3号、324条2項6号
種類株主総会(特殊決議) 株式交換完全子会社(譲渡制限のない種類株主の株式交換対価が一部でも譲渡制限株式であるとき) 種類株主総会で過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち、株主の半数(定款で加重可)以上かつ議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 783条3項、324条3項2号
株式交換完全親会社
種類株主総会(種類株主全員の同意) 株式交換完全子会社(種類株主に交付される株式交換対価が一部でも持分等である場合) 種類株主全員の同意 783条4項
株式交換完全親会社
簡易手続(原則) 株式交換完全子会社
株式交換完全親会社 完全親会社が完全子会社株主に交付する株主交換対価額が完全親会社の純資産総額の1/5(定款で軽減可)以下の場合は、完全親会社における総会決議が不要 796条3項本文
簡易手続(例外) 株式交換完全子会社
株式交換完全親会社 (ア)承継債務額が承継資産額を超えるか、分割会社に交付する金銭等の簿価が承継会社から承継する純資産を超える場合、
(イ)完全親会社が公開会社でなく、完全子会社株主に交付する株式交換対価に譲渡制限株式が含まれる場合、
(ウ)株式交換の通知・公告の日から2週間以内に原則議決権の1/6以上の株式を持つ株主が合併に反対する旨を会社に通知した場合は、
決議の省略ができない。
(ア)796条3項ただし書前段、795条2項1号2号
(イ)796条3項ただし書後段、1項ただし書
(ウ)796条4項、規則197条
略式手続(原則) 株式交換完全子会社 完全親会社が完全子会社の特別支配会社の場合は、完全子会社における総会決議が不要。株主の差止請求権あり(784条2項) 784条1項本文
株式交換完全親会社 完全子会社が完全親会社の特別支配会社の場合は、完全親会社における総会決議が不要。株主の差止請求権あり(796条2項) 796条1項本文
略式手続(例外) 株式交換完全子会社 完全子会社が公開会社であって、種類株式発行会社でもなく、株式交換の対価が譲渡制限株式の場合は総会決議を省略することができない。 784条1項ただし書
株式交換完全親会社 完全親会社が譲渡制限株式を発行する会社であり、株式交換対価に完全親会社の譲渡制限株式が含まれる場合は決議を省略することはできない。 796条1項ただし書
持分会社 株式交換完全子会社 −(持分会社は株式交換完全子会社になれない)
株式交換完全親会社(合同会社のみ) 株式交換に際して完全子会社株主が完全親合同会社の社員になるときは、株式交換完全親会社において総社員の同意が必要。ただし定款に別段の定めを設けることができる。 802条1項3号


(6)株式移転
 株式移転するには、株主総会の特別決議によって株式移転の承認をする(804条1項・309条2項12号)。完全子会社となる会社が公開会社であって、完全子会社株主に交付する株式移転の対価が一部でも譲渡株式等である場合には完全子会社となる会社において特殊決議による承認が必要である(804条1項・309条3項3号)。
 完全子会社が種類株式発行会社の場合、譲渡制限のない種類株主の株式移転対価が一部でも譲渡制限株式であるときは、完全子会社の種類株主総会において特殊決議が必要である(804条3項、324条3項2号)。
   完全子会社となる会社の株主は株式移転によってその地位を失うので、総会承認なしに株式移転することはできない。よって簡易株式移転はない。また、株式移転においては完全親会社はまだ存在していないので、特別支配会社ということはありえない。したがって、略式株式移転は存在しない。
株式移転 株主総会の決議その他の株主・社員の承認の要件 根拠規定
原則(特別決議) 株式移転完全子会社 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 804条1項、309条2項12号
例外(特殊決議) 株式移転完全子会社(公開会社で、株主に交付される株式交換対価が一部でも譲渡制限株式である場合) 過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち株主の半数(定款で加重可)以上かつ議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 804条1項、309条3項3号
例外(総株主の同意) 株式交換完全子会社(株主に交付される株式交換の対価が一部でも持分等である場合)
種類株主総会(特別決議) 株式移転完全子会社(完全子会社株主に交付する対価が完全親会社の譲渡制限株式であるとき)
種類株主総会(特殊決議) 株式移転完全子会社(譲渡制限のない種類株主の株式移転対価が一部でも譲渡制限株式であるとき) 種類株主総会で過半数(定款で3分の1まで軽減可)以上の出席株主のうち、株主の半数(定款で加重可)以上かつ議決権の3分の2(定款で加重可)以上の多数 804条3項、324条3項2号
種類株主総会(種類株主全員の同意) 株式移転完全子会社(種類株主に交付される株式交換対価が一部でも持分等である場合)
簡易手続(原則) 株式移転完全子会社
簡易手続(例外) 株式交換完全子会社
略式手続(原則) 株式移転完全子会社
略式手続(例外) 株式交換完全子会社
持分会社 株式移転完全子会社 −(持分会社は株式移転完全子会社になれない)