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HOME > 司法試験〜短答の鬼 > 担保物権(2)

2.倒産手続における担保物権の処遇

(1)担保物権と倒産手続
 担保物権の中核は、優先弁済的効力である。担保権の負担者が経済的に倒産している場合においても、担保権者が他の債権者に優先して弁済を受けることができなければ、担保権の中核が失われることになる。他方で、担保の目的財産は、清算の原資(破産手続)または再建のための経済的基盤(民事再生・会社更生手続)であるから、無条件に優先弁済効を認めると倒産処理手続の目的を損うおそれがある。そこで、利害調整の必要が生じる。

(2)破産手続
 破産手続においては、担保権者は担保権者は原則として自由に担保権を行使できる。この権利を別除権(べつじょけん)という(破2条9項)。破産財団から「別」に「除」く「権」利ということである。
 民事留置権は、破産手続において失効する(破66条3項)。商人間の留置権(商521条)・代理商の留置権(商31条・会社20条)その他の商事留置権の場合は、破産財団に対しては「特別の先取特権」とみなされることになる(破66条1項)。したがって、商事留置権は「別除権」となるから、商事留置権者は別除権者として(破2条9項10項)、破産手続によらないで、留置権を行使できる(破65条1項)。もっとも、商事留置権者の順位は特別の先取特権者よりも劣後する(破66条2項)。商事留置権が別除権とされても、留置権能は維持されるとされる(最判平成10年7月14日民集52巻5号1261頁)。
 先取特権は一般の先取特権と特別の先取特権に区別できる。破産手続における一般の先取特権は、その被担保債権が破産債権となり、別除権とはならない。一般の先取特権は特別の先取特権に後れ(民329条2項)、特定財産の担保権よりも効力が弱い(民335条1項2項・336条)からである。したがって、一般先取特権者は破産手続において弁済を受けることになるが、優先的破産債権として、他の破産債権者に優先して弁済を受けることができる(破98条1項)。
 特別の先取特権は、別除権となるので、破産手続によらないで行使できる(破2条9項、65条1項)。
 質権、抵当権も別除権となり、破産手続によらないで優先弁済を受けることができる(破2条9項、65条1項)。
 したがって破産手続における民法上の典型担保は、民事留置権が消滅、一般先取特権の被担保債権が優先的破産債権となり、商事留置権、特別の先取特権、質権、抵当権が別除権になる。
 仮登記担保は、破産手続において抵当権と同じ扱いとなるので(仮登記担保19条1項)、別除権となる(破2条9項)。根仮登記担保は、消滅する(仮登記担保19条5項)。
 その他、譲渡担保権・所有権留保・ファイナンス=リースなどは所有権の法律構成であるため取戻権を認めるという考え方もある。しかし、譲渡担保権等は別除権として扱うとするのが一般的な考え方である(名古屋高判昭和53年5月29日金判562号29頁[手形の譲渡担保]、札幌高決昭和61年3月26日判タ601号74頁[自動車の所有権留保・譲渡担保])。

(3)再生手続
 民事再生手続においても、商事留置権、特別の先取特権、質権、抵当権は別除権として取り扱われる(民再53条1項)。別除権者は、再生手続によらなくても担保権を行使できる(民再53条2項)。もっとも再生手続は再生債務者の事業の再生を図ることを目的とするから、事業の継続に不可欠な財産に対する別除権行使を認めると、事業の再生ができなくなってしまう。そこで、別除権についても中止命令が認められ(民再31条)、担保目的物の価額の支払いにより担保権を強制的に消滅させる手続が定められている(民再148条以下)。
 民事留置権は失効しない。また、別除権とする規定もない。被担保債権が再生債権の場合、手続によらない権利行使は認められない以上、優先的に弁済を受けることができず、弁済を促す効果がないままただ民事留置権者が引き続き目的物を留置するだけになる。
 一般の先取特権は、別除権とならない。一般先取特権の被担保債権は、共益債権であるものを除いて、一般優先債権となる(民再122条1項)。したがって、一般の先取特権者は随時弁済を受けることができる(民再122条2項)。
 仮登記担保権は再生手続においては抵当権とみなされる(仮登記担保19条3項)。したがって、仮登記担保権者は別除権者として担保権を行使できる(民再53条1項2項)。
 譲渡担保、所有権留保、ファイナンス=リースなども担保権と同様、別除権として担保権を実行できるとされる。

(4)更生手続
 会社更生手続においては、担保権を手続外で行使することは認められない。商事留置権、特別の先取特権、質権、抵当権によって担保される債権で、更生手続開始前の原因によってに生じた、共益債権以外のものは更生担保権となる(会更2条10項)。更生担保権は、更生計画の定めるところによらなければ弁済等を受けることができない(会更47条1項)。
 民事留置権については特別の定めがないので、その被担保債権は更生債権となる。手続によらない権利行使は認められない以上、優先的に弁済を受けることができず、弁済を促す効果がないままただ民事留置権者が引き続き目的物を留置するだけになる。
 一般先取特権の被担保債権は、共益債権・更生担保権に該当するものを除き、優先的更生債権として、一般の更生債権者に優先する(会更168条1項2号)。
 仮登記担保は、更生手続においては抵当権とみなされる(仮登記担保19条4項)。したがって、仮登記担保権者は更生担保者として更生手続によらなければ弁済等を受けることができない(会更2条10項・47条1項)。
 譲渡担保、所有権留保、ファイナンス=リースなども担保権と同様、更生担保権としての扱いを受ける(最判昭和41年4月28日民集20巻4号900頁[譲渡担保]、最判昭和57年3月30日民集36巻3号484頁[所有権留保])。

被担保債権の処遇 破産手続 再生手続 更生手続
民事留置権(民295条) 有益費の償還請求(民196条2項本文)を担保とする善意占有者による目的物の占有 消滅(破66条3項)存続(優先弁済は受けられず、ただ留置するのみ)存続(優先弁済は受けられず、ただ留置するのみ)
商事留置権 商人間の留置権(商521条)、代理商の留置権(商31条・会社20条)、運送取扱人の留置権(商562条)特別の先取特権(破66条1項)→別除権(破2条9項) 別除権(民再53条1項)更生担保権(会更2条10項)
一般の先取特権(民306条) 労働債権(民308条)、租税債権(国徴8条) 優先的破産債権(破98条1項)一般優先債権(民再122条1項)優先的更生債権(会更168条1項2号)
特別の先取特権 動産売買の先取特権(民321条)、不動産工事の先取特権(民327条)別除権(破2条9項)別除権(民再53条1項)更生担保権(会更2条10項)
質権(民342条) 動産質(民352条)、債権質(民362条1項)
抵当権(民369条) 根抵当権(民398条の2)
仮登記担保 代物弁済の予約、停止条件付代物弁済契約別除権(仮登記担保19条1項、破2条9項)別除権(仮登記担保19条3項、民再53条1項)更生担保権(仮登記担保19条4項、会更2条10項)
譲渡担保・所有権留保・ファイナンス=リース等  別除権(破2条9項準用)別除権(民再53条1項準用)更生担保権(会更2条10項準用)